看護師の内海です。
スポーツや日常生活において、打った・挟んだ・捻った等、様々なことが原因で骨折につながることがありますが、今回は特に寒い時期に起こりやすい高齢者の転倒について説明します。
〇 転倒による死亡者数は交通事故の約3倍
転倒・転落・墜落事故は近年増加傾向にあり、なかでも滑る・つまづく・よろめくことによって生じた同一平面上での「転倒」によるものの割合が多く占めています。
そして、その亡くなる人の数は、なんと交通事故死者の約3倍にも上り、その殆どが高齢者というのが現状です。
65歳以上の高齢者のうち、年間で平均3人に1人転倒しています。そして転倒した高齢者のうち、15人に1人は骨折しています。
転倒して頭を強く打ってしまうことは命に関わることですが、身体のバランスを保つ上で大切な腰や大腿骨・股関節の骨折であっても高齢者にとっては寝たきりになるリスクが高いのです。
寝たきりになることで体の衰弱が進行して亡くなってしまう人が多いのです。
〇 転倒によって起こりやすい大腿骨近位部骨折
尻もちをついて転倒した時に特に起こりやすい骨折が、大腿骨近位部(脚の付け根、股関節の一部分)骨折です。
その症状は、転倒後に大腿の付け根の痛みで立つ・歩くことができなくなります。
大腿骨近位部骨折は、治療に長い時間を要し、痛みや安静による活動性の低下から寝たきりの状態に移行しやすい骨折です。
大腿骨近位部骨折の90%は転倒によるものであることから、高齢者の転倒予防=骨折予防につながるといえます。
〇 転倒の要因
高齢者が転倒してしまうと、外傷の有無に関わらず転倒経験そのものによる転倒恐怖感や歩行に対する自信喪失から、高齢者が自ら活動を制限したり、家族による活動制限によって身体機能低下をきたし、さらに転倒リスクを高めてしまう悪循環に陥る場合もあります。
高齢者の自立性を維持するためにも転倒の予防が重要になります。
【内的要因…加齢に伴う身体の変化や疾患】
たとえば、加齢に伴って関節の動きが悪くなったり下肢の筋力が低下すると、足を持ち上げる力が低下します。
そうすることですり足になり、低い段差でもつまづきやすくなります。
また、加齢に伴う背骨の変形と腰や背中の筋力低下が加わることで背中が丸くなりやすくなります。
背中が丸くなると股関節の動きが制限されて歩幅が小さくなります。歩幅が小さくなることで歩行が不安定になります。
さらに、前かがみになった上体を起こすために骨盤が後傾して重心が後方へ移動し、膝を曲げて姿勢のバランスを保つ状態になります。
このことによりわずかな動きでもバランスを崩しやすくなり、転倒リスクが高まります。
そのほか、脳梗塞や認知症などの神経疾患、不整脈や心不全などの循環器疾患、内耳疾患、視覚障害など、高齢者は運動機能に影響する疾患を有することが多いです。
加えて様々な薬を内服している場合があり、薬の中にはふらつきや低血圧を起こすものもあるため転倒の危険性が増します。
⇒内的要因は、加齢変化や疾患に関連するため完全に排除することは困難です。
しかし、リハビリテーションで関節可動域訓練や筋力をつけたり、骨粗鬆症の治療を行うことが転倒の予防につながります。
【外的要因…生活環境面に関すること】
内的要因とは異なり、改善可能な点があります。
以下に述べたことを参考にできることから取り組んで下さい。
① 電気コードや絨毯の端、座布団、こたつ布団など、つまづきやすいものが歩行スペースにある。
⇒生活のしやすさに配慮しつつ整理整頓を行いましょう。
② 身体寸法に合わない杖や歩行器の使用や、誤った使い方・破損
⇒体格との適合性・使用方法の適切性、破損や不具合は定期的に点検しましょう。
③ スリッパなど脱げやすく滑りやすい履物
⇒脱げにくく滑りにくい靴や靴下を履くようにしましょう
④ 段差、階段、トイレ、浴室の環境
⇒スロープ台や手すりを設置。手すりはつかみやすい高さで壁の色と見分けやすいものが望ましいです。
⑤ 照明
⇒足元が暗いと転倒リスクが高まります。常夜灯やフットライトなどの補助照明を利用しましょう。
○ 転倒の予防
リハビリで関節可動域訓練・筋力増強・ストレッチをすることで転倒しにくい身体づくりをすることが大切です。
また、骨粗鬆症の定期的な検査で自身の身体の状態を知っておくことや、骨粗鬆症の治療を行うことで骨折のリスクを減らすことができます。
そして、住み慣れた自宅の環境を整えることを心掛けましょう。
大がかりな改修工事までできなくても、歩行スペースに極力物を置かないようにしたりすることは鉄則です。
これから冬の寒さがさらに本格化すると、寒さによって筋肉が思うように動かなくなったり、服装が厚着で動きにくくなり転倒が増加します。
転倒は誰にでも起こりうることです。
できることから改善して予防していきましょう。